編集部記事

今年のインフルエンザの傾向――医師に聞く流行の型・時期と効果的な対策

今年のインフルエンザの傾向――医師に聞く流行の型・時期と効果的な対策
小畑 正孝 先生

医療法人社団ときわ 理事長、医療法人社団ときわ 赤羽在宅クリニック 院長

小畑 正孝 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

今年もインフルエンザが流行する季節になりました。
例年では1月~2月をピークに流行するインフルエンザですが、今年の流行状況などはどうでしょうか。
また、ワクチンの接種状況や今年の特徴について、医療法人社団ときわ 赤羽在宅クリニック、小畑 正孝先生に伺いました。

この記事の内容は医師個人の知見に基づくものです。

人に感染するインフルエンザウイルスには主にA型とB型があり、今年流行しているのはA型です。また、A型の中でも近年感染が確認されているのが主にA(H3)、A(H1)(季節性)、A(H1)pdm09の3種型で、国立感染症研究所の報告によると、今年はA(H1)pdm09の感染者が全体の8~9割となっています。

インフルエンザウイルスは毎年小さな変異を起こしていますが、およそ10年から40年の周期で大きな変異を起こします。この大きな変異によって発生するのが“新型ウイルス”で、A(H1)pdm09は2009年に発生し、2010年にかけて世界的に大流行したウイルスです。

日本においてインフルエンザは例年1~2月に流行のピークがきますが、今年は9月に一度中規模の流行がありました。この時期には集団感染もみられ、私のクリニックがある東京都北区でも9~10月にかけて学級閉鎖が相次いでいました。

やはり、ワクチンの接種は11~12月に行うのがよいでしょう。ワクチンの接種の効果が出るまでに2週間程度かかり、また効果は3~8か月程度で弱まってしまうことから、接種する時期は早すぎても遅すぎてもよくないといわれています。

例年インフルエンザの流行のピークが1~2月で、春先には終息することが多いので、ワクチンの効果が現れる期間、効果の持続時間を考慮すると、流行期間をカバーできる11~12月が接種のタイミングとして適切と言えます。

痩せている、寝不足である、持病があるなど、全身状態が悪い方は免疫力が低下しているためにインフルエンザウイルスに感染しやすいといえます。特に寝不足が続いている方は免疫力が大きく低下しているので、感染するリスクが高くなります。

また、インフルエンザウイルスの有効な感染予防として、手洗いや加湿などがあります。帰宅時などに手洗い習慣がある人とない人、部屋を適切な湿度(50~60%)に保つ取り組みをしている人としていない人では、当然後者の方が感染する可能性が高いのではないでしょうか。

インフルエンザの典型的な症状は、発熱(通常38℃以上の高熱)、頭痛、体のだるさ、筋肉痛、関節痛、咳、鼻水などです。いわゆる“風邪”よりも全身症状が強く、また急激に症状が現れるのが特徴です。

ワクチンを接種しているなどで、熱があまり出ないなど症状が軽い場合も珍しくはありません。通常の風邪と見分けがつかない場合では、特に治療や検査は必要ないと考えます。

今年は中規模の流行があった9月に一時的にやや不足気味になったものの、その後は安定して供給されている印象です。ワクチン接種を受ける人が増え始める11月に入ってからも安定的に供給されています。

インフルエンザワクチンの供給不足は、2016年には熊本地震でワクチン生産施設が被災したことでよくいわれるようになりましたが、2019年現在ではそのような状況はもう脱却したのではないでしょうか。

どのようなマスクでもほとんどの場合感染を完全に予防することはできません。多くの方がマスクをつけるとインフルエンザウイルスの感染を予防できると勘違いされていますが、実は完全な予防は難しいのです。

とはいえ、インフルエンザにかかっている方の看病をしなければならない場合や、不特定多数の人が密集するような場所では役に立つこともあります。

また、インフルエンザにかかっている方はマスクをすることで周囲への感染拡大を防ぐことができるため、積極的に着用すべきです。また、インフルエンザにかかわらず、咳のエチケットとしてもマスクは効果的です。

市販のマスクにはさまざまなものがありますが、機能で選ぶよりも気軽に使い捨てられるものが衛生的でよいでしょう。

インフルエンザを予防するには、第一にワクチン接種が効果的です。ワクチンの効果は100%ではなく、接種してもインフルエンザにかかってしまうことはありますが、米国CDC(疾病管理センター)によると、65歳未満の健常者の場合、ワクチン接種によってインフルエンザの発症を70~90%減らすことができます。

ワクチン接種以外の予防対策として、疲労しすぎない、寝不足にならないようにするなど体調を整えておくこと、手洗いを心がけることも大切です。

また、室内を適切な湿度(50~60%)に保つこともインフルエンザの予防に効果的です。しかし、オフィスや学校といった広い施設は乾燥しやすく、加湿しにくい傾向があります。実際に、普段私たちが訪問診療に伺っているような老人ホームでも、常に加湿器を使っているにもかかわらず、かなり空気が乾燥していることがあります。そのため、加湿器を使用しているからといって安心せず、しっかりと湿度計を用いて湿度を管理したほうがよいでしょう。

インフルエンザの治療に使うオセルタミビル、ザナミビル水和物は、予防的に内服することで発症を抑える効果があるとされています。そのため、家族が感染した場合や、病院の病棟や老人ホームなどで流行しているなど、感染を避けらないような場合に予防投与を行うことは一定効果的であるといえるでしょう。

しかし、どんな薬にも副作用がありますし、薬にもお金がかかります。使う場面や期間を広げれば広げるほどメリットとデメリットのバランスが逆転してしまいます。

そのため、日常的なインフルエンザ予防という観点ではワクチン接種のほうがずっと効果的でしょう。

昨年、新薬であるバロキサビルが発売され話題となりました。しかし、この薬は薬剤耐性ウイルスを蔓延させてしまう危険性が高く、むしろ発熱や咳などの症状が長引いてしまうという報告もあります。また、12歳未満の子どもで耐性ウイルスの検出率が23%と相当に高いことから、特に子どもへの投与は慎重に検討すべきと指摘されています。そのため、当院ではバロキサビルを処方しない方針にしています。

投与が1回のみという利便性は非常に魅力的ですが、薬価がオセルタミビルリン酸塩の1.7倍ということもあって、費用面や安全性の観点からも特別な理由がない限り、使用を控えるべきと考えています。

なお、現在用いられている主な抗インフルエンザ薬は、いずれもインフルエンザの有症状期間が1日短くなるだけです。基本的にインフルエンザは無治療でも1週間程度で治るので、高齢の方や幼児、健康状態に不安のある方でなければ、病院を受診せず自宅で安静にしておくのもよいでしょう。ただし、症状がつらい場合や、水分が摂れない、様子がおかしいなどの異変がある場合には受診を検討してください。