院長インタビュー

千葉県房総半島南部において生活伴走型医療で地域住民とともに健康を守る鴨川市立国保病院

千葉県房総半島南部において生活伴走型医療で地域住民とともに健康を守る鴨川市立国保病院
小橋 孝介 先生

鴨川市立国保病院 病院長

小橋 孝介 先生

目次
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鴨川市立国保病院は、房総半島の安房(あわ)地域にある総合病院です。この地域で確立された医療リソースの1つとして地域密着型の医療サービスを展開し、地域住民のニーズに応える多様な取り組みを実施して地域住民の信頼を集めています。同院の特徴や取り組みについて、病院長である小橋 孝介(こはし こうすけ)先生にお話を伺いました。

病院外観
病院外観(提供:鴨川市立国保病院)

鴨川市立国保病院は、千葉県房総半島の南部、安房地域にある公立病院です。1949年に前身となる吉尾村国保組合直営診療所が設立され、その後現在の所在地への移転を経たのち、2022年に病院建物を新築し生まれ変わりました。現在、病床は70床を有しています(2024年1月現在)。

千葉県鴨川市は人口3万人強の都市ですが、高齢化率では全国平均で30%前後であるのに対し鴨川市では39.4%、当院がある安房地域内陸の長狭(ながさ)エリアでは48%という大変高い数値を示しています(2023年時点)。

同エリアでは今後もさらに医療ニーズは増えることを見込んでおり、この状況に応えるためにも、当院では地域の生活に密着した“生活伴走型医療”という独自のアプローチで医療サービスを提供しています。当院が古くから力を入れている在宅診療も、この医療方針の重要な柱の1つです。

当院に限らず国保病院は、国民皆保険制度があるにもかかわらずへき地でほかと同等の医療がない場所に医療を提供する、無医地区をなくす、といった目的で開設されたのが大きな特徴の1つで、地域にお住まいの方にとって欠かせない存在となっています。

当院の理念は、「地域住民の健康と安寧を確保し維持すること」です。公立病院としての機能と役割を果たし、鴨川市民の生活とニーズに合った医療を提供しています。

当院は診療科としては内科、小児科、整形外科などといった医科のほか、地域の医療ニーズに応えて歯科を設置しており、どの診療科でも“生活伴走型医療”を行っているのが特徴です。

“生活伴走型医療”は、変化し続ける患者さんの状態や生活に寄り添い、病気になる前の予防から終末期に至るまで、形を変えながら患者さんを中心にずっと関わっていく医療アプローチです。

そのなかでも在宅支援事業は大きな柱の1つとして取り組んでおり、当院からおよそ10km圏内の100〜120人の在宅患者さんを訪問しています。また、2025年からは歯科の訪問診療も開始する予定です。

予防で健康を維持することの大切さを伝える取り組みも積極的に行っており、地域の方々に向けて公開講座や出張講話を定期的に実施しています(2024年1月現在)。

病室は全室が個室となっています。建て替え後すぐに新型コロナウイルス感染症が大流行した際も、感染対策として全室個室であることが非常に役に立ちました。また、ご家族の立ち会い調整やプライバシーの配慮も容易なため、患者さんのQOL(生活の質)を高められるのも個室ならではです。

当院では終末期医療にも力を入れており、その一環で行うACP(Advance Care Planning:患者さんが今後の医療ケアについてどのような希望や選択を持つかについての相談)によって分かった患者さんご自身の生き方、やりたいことについても、全室個室であることでより充実したお手伝いをすることができるようになりました。お部屋でアロマやお香を焚いたり、音楽、写真などの趣味を楽しんだり、ご家族に最期まで付き添っていただけるのは個室のよさだと感じています。

安房地域医療の特徴として、病院間の役割分担が明確であることが挙げられます。

当院では、かかりつけ医として日常的な医療から2次救急までを行っていますが、2次救急でも手術などより専門的な治療が必要になった場合は亀田総合病院や安房地域医療センターへとスムーズに紹介させていただいています。

一方で終末期医療などでは、亀田総合病院からの紹介を受けて当院で患者さんへのしっかりと配慮されたケアを実施しています。当院ではこのように近隣の医療機関と相互に連携しながら、地域の患者さん一人ひとりにとって適した医療環境を整えることに努めています。

また、当院の敷地内にはワンストップで相談可能な地域包括支援センターがあり、ここでは福祉と医療の一体化を目指しています。これにより、たとえば救急受け入れの際には治療を行う一方で、院内に併設する市の地域包括支援センターにも連絡を入れ福祉的対応を並行して行うことができるようになりました。このように地域のほかの医療機関だけでなく福祉機関との連携を今後も積極的に進めていき、地域にお住まいの方がより安心して暮らせるように努めたいと思っています。

当院は、長年にわたり在宅医療、訪問診療といったアウトリーチ医療に取り組んでおり、多くの経験を積んできました。歴史の中で得たこの知見を末永く生かして地域に還元できるよう、現在は人材育成という課題に取り組んでいます。

たとえば、学生、研修医の受け入れを積極的に行ったり、院内で企業のようなワークショップを行いスタッフにも病院のマネジメント面を意識してもらったりするなど、よりよい病院になるよう努力をしています。こういった取り組みは、スタッフ自身にとっても医療従事者としての気持ちや目標、行動について今一度考えるきっかけとなり、病院全体として患者さんを支えてともに成長する組織へと変貌しつつあります。

これによって、スタッフ一丸となって救急車を全て受け入れた結果、受け入れ件数が前年の約3倍となる516件*となり、より多くの患者さんの命をつなぐこともできました。

今後もしっかりと目の前の患者さんに向き合い、チームワークを密に取っていきたいと考えています。

*2022年度実績

生活に密着した医療を提供している当院は、急性期から終末期まで地域医療を体感できる病院です。地域の方々の生活を見ながら総合診療的な医療を行い、訪問診療やターミナルケアなど地域に密着した医療を学ぶことに興味のある方は、ぜひ当院に見学にいらしてください。

当院は、地域にお住まいの方々とともにある病院を目指しています。

大型台風のような災害が発生した際には、復興の一助となるよう地域の方たちと肩を並べて乗り越えてきました。南房総の健康を守る一翼として地域にお住まいの方々と共に歩み、これからも改革と努力を続けてまいります。