ろうしゅつせいべんしっきん

漏出性便失禁

最終更新日:
2020年08月12日
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2020/08/12
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概要

便失禁は肛門から便が漏れる症状ですが、日本大腸肛門病学会による『便失禁診療ガイドライン』(以下、便失禁GL)によると、“無意識または自分の意思に反して肛門から便が漏れる症状”と定義されています。漏出性便失禁とは、このうちの“無意識に肛門から便が漏れる症状”であって、便失禁GLでは“便意を伴わず、気付かないうちに便を漏らす症状”と定義されています。

便失禁には、漏出性便失禁のほかに“便意を感じるが、トイレまで我慢できずに便を漏らす症状”もあり、これは切迫性便失禁と呼ばれます。そして、漏出性便失禁と切迫性便失禁の両症状を有する場合は混合性便失禁と呼ばれます。この3タイプの便失禁のうち、漏出性便失禁はもっとも多いタイプの便失禁です。

原因

漏出性便失禁は高齢者によく見られる便失禁症状の1つですが、原因はさまざまです。

もっとも多いのは、加齢に伴う内肛門括約筋(ないこうもんかつやくきん)の収縮力低下で、内肛門括約筋機能低下と呼ばれます。肛門を締めている筋肉は肛門括約筋と呼ばれますが、その肛門括約筋には内肛門括約筋と外肛門括約筋(がいこうもんかつやくきん)の2種類があります。内肛門括約筋は平滑筋という不随意筋(ふずいいきん)でできていますので、自分の意志で締めることができませんが、逆に言うと、自分で締めなくても勝手に肛門を締めてくれています。大腸の機能が正常な場合、便意を感じていないときは直腸に便はありませんが、黄色や茶色の便の色がついた粘液は直腸内に存在します。内肛門括約筋の収縮力が正常だと、肛門が勝手に締まってくれているので直腸内の粘液は肛門から漏れ出てきませんが、内肛門括約筋の収縮力が低下すると、肛門の締まりが悪くなるので直腸内の便の色がついた粘液が重力に従って肛門から漏れ出てきます。これが漏出性便失禁で、通常の排便をした1~2時間後に少量だけ漏れることが多いです。

内肛門括約筋機能低下は加齢に伴って生じることが多いですが、若い世代でも、経腟分娩に伴う会陰裂傷(えいんれっしょう)や事故によって内肛門括約筋が損傷したり、糖尿病などで肛門括約筋の動きをコントロールする神経の機能が低下したりすると生じます。また、肛門に近い直腸がんで、内肛門括約筋を切除する括約筋間直腸切除術を含めて直腸の手術を受けた後にも生じます。

それ以外に、加齢や脊髄障害のために直腸感覚が低下して、直腸に便があっても便意を感じないために直腸に便が大量にたまった状態にもかかわらずトイレに排便に行かない人がいます。この状態は直腸糞便塞栓と呼ばれますが、その場合、直腸の便の一部が便汁として肛門から溢れ出て漏れることがあり、溢流性(いつりゅうせい)便失禁と呼ばれ、便失禁の症状としては漏出性便失禁です。いわば、異常に便が直腸にたまる便秘が、便失禁の原因になっている状態です。

症状

漏出性便失禁は、“便意を伴わず、気付かないうちに便を漏らす症状”です。通常の排便をした1~2時間後に少量だけ漏れることが多く、下着が汚れないように尿漏れパッドや生理用ナプキンを装用している方もいます。漏出性便失禁は、たとえ少量の漏れでも臭いや衛生面など社会生活を送るうえで大きな支障を引き起こすことが多く、便失禁が気になって外出できないなど、患者にとって精神的な負担が大きい症状の1つです。

また、気付かないうちに便が漏出しているため、肛門周囲の皮膚が荒れて痛みやかゆみなどの症状を引き起こすこともあります。

検査・診断

症状などから漏出性便失禁が疑われるときは、肛門括約筋の機能などを評価するために次のような検査が行われます。

肛門内圧検査

肛門内に“圧力”を測定できるカテーテル(細い管)を挿入し、肛門括約筋の収縮力を測定する検査です。この検査で、安静時の肛門管内の圧力(静止圧と呼ばれます)が低い(一般的には40mmHg未満)と、漏出性便失禁の原因が内肛門括約筋機能低下であると考えられます。

直腸バルーン感覚検査

直腸内にバルーン(風船)を挿入して膨らませ、直腸の感覚を調べる検査です。バルーンに注入した空気の量で評価しますが、かなりの量を注入しても便意を感じなければ、便意が生じにくい状態で直腸感覚低下と診断します。

肛門管超音波検査

肛門に、親指大程度の太さの円筒状の超音波検査機器を挿入して、肛門括約筋が損傷したり異常に薄くなったりしていないかなどを調べる検査です。

内肛門括約筋は加齢とともに厚くなるので、65歳以上で厚さが2mm以下だと異常に薄い内肛門括約筋変性症と診断します。内肛門括約筋変性症では、内肛門括約筋機能低下を生じやすく、漏出性便失禁の原因となります。

治療

食事指導

漏出性便失禁では軟便であることが多いので、まずは食物繊維の摂取量を増やす食事指導をします。

薬物療法

食事指導でも漏出性便失禁が改善しない場合は、ポリカルボフィルカルシウムという薬を内服して便の硬さを正常化します。目標は、食べ頃のバナナか、それよりもやや硬い程度です。ポリカルボフィルカルシウムの内服でも十分に便が硬くならない場合はロペラミド塩酸塩という下痢止めを内服しますが、内服量が多いと便秘になる危険性があるため、最初は細粒による少量内服から開始し、必要に応じて増量します。

排便習慣指導

直腸感覚低下による直腸糞便塞栓が漏出性便失禁の原因である場合には、患者に「直腸に便があっても便意を感じない異常な状態になっている」という事実を伝えたうえで、便意に頼ってトイレへ排便に行くのではなく、タイミングを決めて定期的にトイレに行く排便習慣指導を行います。

具体的には、食事摂取によってS状結腸の便が直腸まで来ている可能性が高い朝食と夕食の30分後に便意を感じていなくてもトイレに行って、いきんで排便する努力をします。それでも便が出ない場合は、炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム坐剤を挿入して直腸内にある便を強制的に排出させます。このようにして定期的に直腸を空虚化していると、直腸の感覚が次第に回復する場合もあります。

骨盤底筋収縮訓練・バイオフィードバック療法

内肛門括約筋は不随意筋であるため、肛門括約筋を締めて収縮力を高める骨盤底筋収縮訓練やバイオフィードバック療法では、その収縮力は改善しません。しかし、随意筋である外肛門括約筋の収縮力の一部は、安静時の肛門内圧にも寄与するため、内肛門括約筋機能低下による漏出性便失禁に対しても骨盤底筋収縮訓練やバイオフィードバック療法が有効な場合があります。

アナルプラグ

“アナルプラグ”と呼ばれる専用の装具を肛門から直腸に挿入・留置して、肛門に栓をすることによって便失禁を防ぐ治療法です。

直腸肛門の感覚が正常な方では、その肛門留置による不快感に耐えられないことが多いですが、その肛門留置を心理的にも身体的にも不快に感じないで継続使用できれば、漏出性便失禁に対する有用な治療になります。大切な用事での外出時だけなど、ワンポイントでの使用も有用です。

予防

漏出性便失禁に対する有効な予防法はありませんが、軟便は直腸内に液状の便が残る原因になるので、食物繊維の多い食事摂取を心がけ、辛いものなど刺激性食品の取り過ぎやアルコールの飲み過ぎなどに注意しましょう。

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