概要
膵臓がんとは、膵臓に発生するがんのことです。90%以上は膵臓でつくられる膵液の通り道となる膵管の細胞から発生しますので、一般的に膵臓がんといえば膵管に発生するがんのことを指します。
膵臓の構造(提供:PIXTA)
膵臓は胃の後ろに位置し、おなかの深い場所にあるため膵臓がんを発症しても初期段階では自覚症状が現れにくいとされています。さらに、膵臓がんは早い段階から周囲の組織や臓器を破壊しながら大きくなるため進行も早く、おなかや背中の痛み、食欲不振などの症状が現れて検査を受けた段階ではすでに進行した状態であるケースも少なくありません。そのため、膵臓がんは発見された段階で手術による切除が可能なのは2割に過ぎないとされています。また、仮に切除できたとしても再発するリスクも高く、術後の5年生存率は2~4割にとどまるなど予後が悪いのも膵臓がんの特徴の1つです。
膵臓がんは喫煙習慣や肥満など生活習慣の乱れ、遺伝、慢性膵炎や糖尿病などの病気によって発症リスクが上昇することが分かっています。また、60歳以上の男性に多く見られ、近年発症率が上昇していることも指摘されています。
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原因
膵臓がんのはっきりとした発症メカニズムは現時点では解明されていません。しかし、近年の研究によれば、特定の遺伝子変異が膵臓がんの発生に大きく関わっていることが明らかになっています。実際、同じ家系内に膵臓がんの発症者がいる人は家族性膵がんを発症しやすいことも知られており、遺伝が1つの大きな要因となると考えられます。
また、膵臓がんは喫煙習慣や肥満など好ましくない生活習慣、慢性膵炎・膵臓がん・糖尿病など膵臓に発生する慢性的な病気も発症リスクとなります。
症状
膵臓がんは胃の奥に位置し、さまざまな臓器や血管などで囲まれているためがんが発生したとしても早期段階では自覚症状が現れにくいのが特徴です。早期段階でもおなかや背中の違和感、食欲低下、体重減少などの症状が現れることもあります。しかし、比較的高齢で発症し、症状の自覚があっても患者の多くは膵臓に原因があるとは思わず、背中や胃の痛みの症状を訴えて整形外科や消化器内科を受診するため、膵臓がんによる症状とは認識されずに見逃されるケースも多いと考えられています。
そして、膵臓がんは周りの臓器や血管を破壊しながら進行していくため、進行するとおなかや背中の痛み、おなかの張りなどの症状が現れるようになります。また、膵臓で産生される消化酵素を含む膵液が膵管内に詰まって膵炎を引き起こし、高熱や強い上腹部の痛みなどを引き起こすこともあります。さらに、膵管は肝臓で産生された胆汁の通り道でもある胆管と合流するため、膵管が詰まることによって胆管も閉塞し、黄疸(目や皮膚が黄色くなる症状)や皮膚のかゆみなどが見られるようになることも少なくありません。黄疸は膵頭部にできたがんの場合に比較的早い段階で症状が現れることがあるため、早期発見につながることもあります。
膵臓は血糖値を下げるはたらきを担うインスリンと呼ばれるホルモンが分泌される臓器です。そのため、膵臓がんが進行して膵臓の機能が低下するとインスリンの分泌量も減少し、糖尿病の発症・悪化が生じることもあります。中高年で糖尿病を発症したり、急に血糖コントロールが悪化したりしたケースでは膵臓がんの可能性を考え、早期発見のためにも必要に応じて検査を受けることが大切です。
検査・診断
症状などから膵臓がんが疑われるときには次のような検査を行います。
血液検査
膵臓がんが疑われる際には、膵臓の機能を評価するためにアミラーゼ値などの血液検査を行います。また、膵臓がんを発症すると“CEA”や“CA19-9”といった腫瘍マーカー(がんがあるとつくられる特有の物質)が高値になるため、これらの腫瘍マーカーの有無を調べるのが一般的です。近年では、尿、唾液、血液などを用いてより高い精度でがんを発見できる“リキッド・バイオプシー(体液を用いた低侵襲検査)”という腫瘍マーカーも登場しました。現在、さまざまな機関で膵臓がんの早期発見・治療に役立つ新しい検査の研究が進められており、今後の発展が期待されています。
画像検査
膵臓の状態を詳しく調べるため、画像検査が行われます。超音波検査では膵管の拡張がないか、嚢胞の有無などを確認することができます。体への負担なく簡便に行うことができる検査ですが、膵臓はおなかの深い部位にあるため超音波ではうまく描出できないことも多々あります。そのため、多くは造影CTやMRIなどを用いた検査が行われます。
これらの検査では発見できない小さながんを調べるために超音波内視鏡検査も行われます。超音波装置のついた内視鏡を体に入れて、胃や十二指腸の中から膵臓などの臓器に超音波を当てて病変の状態や広がりなどを見ることができる検査です。通常の内視鏡と比較すると組織の内部の観察などができるため、病巣の深さや表面には見えない腫瘍などを見つけやすいという特徴があります。
また、膵管の状態を詳しく調べるため、内視鏡を挿入して膵管に造影剤(X線に描出されやすい薬)を注入して膵管の走行や太さ、狭窄・閉塞の有無を調べる膵管造影検査を行うこともあります。
さらに、画像検査などから膵臓がんか否かはっきり分からない場合は、確定診断のために内視鏡を用いて膵管からがんの組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる病理検査が必要になります。
治療
膵臓がんは発見された段階の進行度によって治療方法が大きく異なり、主に次のような治療が行われます。
手術
がんの病変が膵臓内にとどまっている場合や膵臓外に及んでいるものの周辺の血管や臓器を大きく破壊していないような場合には、手術による切除が可能です。手術方法はがんが発生している部位によって異なり、膵臓の一部を切除すればよいケースもあれば、膵臓の一部と共に隣接する十二指腸を切除しなければならないケースもあります。
また、手術後は再発の防止や生存期間の延長を目的として抗がん剤治療が行われることもあります。
化学放射線療法
抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせてがんの縮小を目指す治療方法です。発見された段階でがんがある程度進行し、手術による切除が困難な場合に行われます。ただし、局所療法で効果が限定的なため、他臓器への転移があるようなケース(転移性膵臓がん)では行うことはありません。
抗がん剤治療
手術後に再発を予防するために抗がん剤治療を行うこともありますが、手術が行えない、膵臓周囲のリンパ節や肝臓などのほかの臓器に転移があるようなケース(転移性膵臓がん)では全身に効果がある抗がん剤治療が行われます。
それぞれの症状への対症療法
膵臓がんは進行すると膵管や胆管閉塞による黄疸、重症な糖尿病などさまざまな症状を引き起こします。そのため、手術や抗がん剤治療、放射線療法など膵臓がんを根本的に治すために治療以外に、それぞれに生じた症状に対する治療を行う必要があります。
具体的には、閉塞した胆管と小腸を直接つなぐバイパス手術、胆汁がうっ滞している胆嚢に針を刺して胆汁排泄を促すドレナージ治療、インスリンの補充療法などが行われます。
膵臓がんは進行するとがんによって神経が圧迫されておなかや背中に強い痛みが生じることも多く、治療によって痛みを和らげられるかどうかが重要となってきます(緩和ケア)。痛みがコントロールできている場合には進行膵臓がんでも外来で通院しながら治療を続けることができます。
そのほか、治療に伴う合併症を減らし、回復を早めるために術前術後にリハビリテーション(強化リハビリ)も行われます。
予防
膵臓がんは、明確な発症メカニズムは解明されておらず、さらに遺伝の関与が大きいことから確実に発症リスクを低下させるような方法は現在のところ確立していません。
しかし、膵臓がんは慢性膵炎や糖尿病などの病気、喫煙習慣、肥満などが発症リスクとして挙げられます。これらの発症リスクを低下させるためには、食生活、運動、喫煙などの生活習慣を改め、膵臓に関連する病気を発症した場合は適切な治療を続けていくことが大切です。
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