疾患啓発(スポンサード)

変形性膝関節症の治療の選択肢

変形性膝関節症の治療の選択肢
桂川 陽三 先生

国立国際医療研究センター病院  整形外科 診療科長

桂川 陽三 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

この記事の最終更新は2019年04月26日です。

変形性膝関節症では、一度傷ついた軟骨を元に戻すことは困難であるといわれています。そのため、軟骨が傷んでいてもそれを補うような治療が中心となり、運動療法、薬物療法、装具療法が行われます。これらの治療では痛みが抑えられず、歩行が困難な場合などには、手術療法を検討します。

今回は、変形性膝関節症の治療の選択肢について、国立国際医療研究センター病院の整形外科診療科長・人工関節センター長である桂川陽三先生に伺いました。

 

変形性膝関節症の治療は、すり減った軟骨を補う治療法が中心になります。

軟骨の中では、古い軟骨をこわして新しい軟骨をつくる新陳代謝が常に起こっていますが、そのスピードは非常にゆっくりとしたものです。新陳代謝のバランスが崩れると、軟骨をこわす力のほうがどちらかというと優性になるため、変形性膝関節症は少しずつ進行していきます。

治療が必要な場合、筋肉をつけたり体重のかかり方を調節したりして、軟骨が傷んでいてもそれをカバーできるような治療を行います。また、そのような治療では痛みを抑えられないという場合には、手術を検討することになります。

 

変形性膝関節症と診断されたら、まずは運動療法を行います。運動療法の中でも一般的によく行われているのがSLR訓練です。足をまっすぐに伸ばして、5秒間持ち上げて下ろすことを繰り返し、足のももの筋肉を強化する訓練です。筋力を鍛えることで、膝関節にかかる負担を減らすことができます。

SLR訓練以外にも、股関節の周りの筋肉を鍛える筋力トレーニングを行うことも効果的です。また、単純に歩くことも、筋力を維持するためには大事なことです。変形性膝関節症の患者さんには、できるだけ歩いていただくようにお話ししています。

痛みが強くてあまり歩けないという患者さんの場合は、プールで歩くことをおすすめします。プールの中では体重がかかりにくく、少し楽に歩けるようになります。

そのほか、自転車も膝の運動になります。エアロバイクをおすすめすることもあります。

 

運動療法に続いて、さまざまな薬剤を処方します。炎症を抑えて痛みをとるために、消炎鎮痛剤を使用します。湿布薬、塗り薬を使うこともあります。痛みが強いときには、麻薬系の鎮痛剤や、抗うつ薬を使うこともあります。

湿布薬や飲み薬などを使用しても痛みが充分にとれない場合、関節の中に注射をする「関節内注射」という方法があります。注射として用いられるのは、ヒアルロン酸やステロイドという薬剤です。

ヒアルロン酸

ヒアルロン酸は軟骨の成分でもあり、潤滑剤のようなはたらきを持っています。関節内に注入することで、関節の表面をなめらかにする作用があります。1週間ごとに1回、連続5回程度の注射を行い、その後は効果をみながらさらに継続したり、いったん休んでみて症状が出たら再開したりと、患者さんによって注射の回数は増減します。

ステロイド

ステロイドは、強力な抗炎症作用を持ち、関節炎をしっかりと抑えることができます。ただし、過度な使用は関節を傷めてしまう可能性があるため、継続して使用すべきではなく、使い方には十分な注意が必要とされています。

血小板の成分がたくさん含まれている「PRP(多血小板血漿)」を用いた先進的な治療法が、メディアなどで話題になっています。自分自身の血液を採血して加工し、関節の軟骨を治す成分を凝縮したものを関節に注射するという方法です。実際にどれくらいの効果があるのかというところは未知数ですが、変形性膝関節症の痛みを軽減する治療法として期待が寄せられています(2019年3月現在は自由診療であり、標準的な費用は注射1回につき30,000円前後です)。

 

サポーターと足底板

運動療法や薬物療法のほかにも、膝関節の負担を軽減する治療法として、装具療法があります。着脱が簡単なものでは、膝の関節を支えるサポーターをおすすめします。市販のサポーターを使っている患者さんも多いです。

整形外科では、必要な場合には「足底板(」と呼ばれる装具を作製し、装具療法を行います。足底板とは、靴に入れて使う医療用の中敷きのことです。外側が少し盛り上がった形になっている足底板は、O脚をX脚へ矯正するはたらきがあります。O脚は膝の内側に負担がかかりやすいため、少しX脚に矯正することで、内側に偏っている負荷を分散する効果があります。

足底板は、変形の初期の患者さんにはとても効果的です。使っているうちに、内側に集中していた負担が分散されて、少しずつ痛みが楽になっていきます。

 

運動療法、薬物療法、装具療法では症状を抑えられず、変形性膝関節症が進行した場合は、手術を検討します。手術の種類は、症状の程度、患者さんの年齢、どの程度までしっかりと治療したいかといったことを考慮したうえで、選択されます。

基本的には、症状が軽い患者さんは、膝への影響が少ない手術を実施します。膝への影響が少ない手術から順番に、関節鏡手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術という3種類の方法があります。

・関節鏡手術…関節の傷んでいる部分を削って平らにする手術。

・高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)…骨を切ってO脚からX脚に矯正する手術。

・人工膝関節置換術…人工関節に置き換える手術。

関節鏡手術は、内視鏡のひとつである関節鏡を挿入して行う手術です。関節のでこぼこしている傷んだ部分を平らに削って、表面をなだらかにし、関節を動かすときに引っかかりがないようにします。

すり減った軟骨を増やすような手術ではないため、根本的な治療にはなりません。骨切り術や人工関節の手術をするにはまだ早いと思われる患者さんで、膝の変形がそこまで悪化していない場合、進行を少しでも遅らせる目的で関節鏡手術を選択することがあります。

高位脛骨骨切り術は、膝の下のほうの「脛骨(」という骨を切って、関節の内側を開く、もしくは関節の外側をくっつけるというどちらかの方法をとり、O脚をX脚に矯正する手術です。

O脚では関節の内側に体重が集中します。そこで、高位脛骨骨切り術によりO脚をX脚に矯正し、まだ軟骨が充分に残っている関節の外側のほうで体重を受けるようにすることで、痛みなどの症状の軽減が見込めます。

なお、高位脛骨骨切り術は人工的に骨折を起こして骨を切る手術であるため、プレートとボルトを用いて、骨折を起こしたところをいったん固定する必要があります。その骨がしっかりと治るまでは、激しい運動や普段の生活は少し制限されます。およそ3か月~半年は何らかの制限が必要です。

手術後、約1年が経過したら、プレートとボルトを抜く手術をします。そのまま残しておくことで特にデメリットがあるわけではありませんが、プレートとボルトの違和感があるという患者さんもいらっしゃるためです。

変形が進んで関節の表面の軟骨がなくなってしまい、ほかの治療法ではあまり効果が見込めないという場合、人工の膝関節に置き換える手術である、人工膝関節置換術を検討します。

国立国際医療研究センター整形外科では、毎年多くの人工関節手術を実施しており、2017年度の人工膝関節全置換術の実施件数は151件でした。また、2017年に人工関節センターを設立し、患者さんとの交流を大切にしながら、よりよい手術ができるように努めています。

人工膝関節置換術について、詳しくは記事4『変形性膝関節症の手術のひとつ、人工膝関節置換術とは?』でお話しします。

 

桂川先生

進行した変形性膝関節症の痛みは非常に強いはずなのですが、診察室では我慢して「痛くない」と言ってしまう患者さんもいらっしゃいます。しかし、歩き方を見せてもらうと、よちよちとしか歩けない状態だということはよくあります。そのため、私が診察するときは、痛いかどうかをお聞きするだけではなく、実際に歩き方を見せてもらっています。歩けないということであれば、「手術をしたほうがいいですね」とお話しするようにしています。

手術に対する不安を持っている患者さんは多いですが、痛みが長く続く場合は病院でお気軽にご相談いただければと思います。

受診について相談する
  • 国立国際医療研究センター病院  整形外科 診療科長

    桂川 陽三 先生

「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。

    「変形性膝関節症」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。

    なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。