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慢性腎臓病の治療法――進行を防ぐために食事や生活でできること

慢性腎臓病の治療法――進行を防ぐために食事や生活でできること
高野 秀樹 先生

国立国際医療研究センター病院 腎臓内科 診療科長

高野 秀樹 先生

目次
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慢性腎臓病と診断されたら、腎機能のさらなる低下を防ぐための治療が必要です。一度低下してしまった腎機能を回復させることは困難ですが、生活習慣の見直しや薬物治療などによって進行を抑制することは可能です。今回は慢性腎臓病の治療法について、国立国際医療研究センター病院 腎臓内科 診療科長でいらっしゃる高野 秀樹(たかの ひでき)先生にお話を伺いました。

慢性腎臓病の治療には大きく2つの目的があります。1つは、人工透析*が必要な末期腎不全の状態にならないよう腎機能の低下をできるだけ抑制することです。もう1つは、心筋梗塞(しんきんこうそく)脳卒中といった心臓や脳の血管の障害を防ぐことです。慢性腎臓病ではこれらの病気を発症する確率が高くなるため、こうした合併症のリスクも視野に入れながら治療を進めることが大切です。

*人工透析:機械を使って人工的に血液をろ過する治療のこと。

治療は慢性腎臓病の原因に合わせて行います。特に原因となっている病気が分かっている場合には、原疾患に対する根本的治療を重視します。また腎生検などの検査で原因が分かれば、その治療をまずはしっかりと行うことが重要です。

最近では、腎炎の治療成績は向上し透析に至る患者数は減少しています。また、一部の自己免疫が関連している病気(膠原病(こうげんびょう))による腎障害の治療も、免疫抑制剤などの登場によって著しく進歩しています。

そのうえで、糖尿病など生活習慣病が背景にある場合には、食事療法や運動療法などによって生活習慣を改善することが重要です。これだけでは進行を抑えられない場合には、薬物治療を開始します。

慢性腎臓病では、腎機能の低下をできるだけ抑制するために、できるだけ腎臓に負担をかけない食事を心がけることが大切です。具体的には以下のようなことを心がけるようにしましょう。

食事でもっとも気を付けていただきたいことは減塩です。

通常、腎臓からは余分な水分や塩分が排出されていますが、慢性腎臓病になるとこれらが排出されにくくなり、体の水分と塩分のバランスが崩れて高血圧を引き起こします。その状態で塩分をたくさん取りすぎてしまうと、余計に高血圧を助長してしまうことになります。

さらに高血圧は腎臓、特に糸球体(しきゅうたい)に大きな負担をかけるため、腎機能の低下に拍車をかけてしまい、慢性腎臓病の悪循環を引き起こします。

慢性腎臓病の患者さんは食事で制限しなければならないことが多いため、どうしても徹底できない場合には、最低限、塩分にだけは気を付けていただきたいと思います。

PIXTAより加工

たんぱく質の取りすぎにも注意が必要です。

通常、分子量の大きなタンパク質は、血液のろ過フィルターである糸球体の小さな網目を通ることはできませんが、慢性腎臓病によって糸球体の網目が(もろ)くなっていると、たんぱく質が糸球体の網目をさらに拡げるようにして通過してきます。その状態でたんぱく質が増えすぎると糸球体の細胞同士のネットワークが破壊されてしまうため、タンパク質の摂取量に気を付ける必要があります。

また、たんぱく質は尿素窒素(BUN)と呼ばれる毒素の基にもなるため、タンパク尿の多い方や尿素窒素の数値が高めの方は、タンパク質の制限がより大切になります。

腎機能がさらに低下するとカリウムの排出量も減少し、体内のカリウムの濃度が高くなります。カリウムは、筋肉の収縮や生体内の微量な電位の形成に重要で、濃度が高くなりすぎると不整脈などによって突然心臓が止まってしまうことがあります。カリウムは生野菜や果物に多く含まれており体にとって必要なミネラル成分ではありますが、濃度が高くなることでこうしたリスクもあるため、腎機能に合わせた適量の摂取を心がけましょう。

さらに腎機能が低下してリンが排泄されづらくなると、リンの濃度も高くなります。リンがたまると血管が石灰化(せっかいか)して硬くなってしまいます。健康な方であっても、リンの過剰摂取が、老化の原因になることが分かっています。

リンには、食品添加物に含まれている“無機リン”とたんぱく質に含まれている“有機リン”があり、無機リンは摂取したほとんどが体内へ吸収されます。無機リンは食品添加物などから知らず知らずのうちに過剰摂取している可能性があるため注意が必要です。

慢性腎臓病の薬物治療では特効薬がない場合も多く、慢性に経過する場合には原因などに合わせていくつかの薬剤を組み合わせて使用します。ここでは、慢性腎臓病の患者さんに使われる薬剤について解説します。

先述したように、高血圧は腎機能低下の悪循環を引き起こす大きな要因となるため、高血圧がある場合は降圧薬(血圧を下げる薬)を使用します。

代表的な降圧薬は、“ACE阻害薬”や“アンジオテンシンII受容体阻害薬(ARB)”と呼ばれるものです。これらの薬剤には、糸球体の出口(輸出細動脈)を優先的に広げることで、腎臓内の圧力(糸球体内圧)を下げて腎臓にかかる負担を減らす効果があります。

また、血圧を下げることでタンパク質が糸球体の網目を無理やり通過しようとする力を抑えることができるため、タンパク尿が減少します。したがって、タンパク尿が多い方にとって特によい適応となります。

MN作成

そのほかによく使用される降圧薬としては、血管を直接開く作用を持つ“カルシウム拮抗薬(きっこうやく)”、腎臓から水分と塩分の排泄を促す“利尿薬”などがあります。交感神経のはたらきを弱める“α(アルファ)遮断薬”や“β(ベータ)遮断薬”も心臓などほかの臓器の状態も考慮しつつ使い分けられます。

糖尿病がある方の場合には、食事療法に加えて血糖値を下げるためのインスリン注射や経口血糖降下薬を使用します。最近では、経口血糖降下薬の1つであるSGLT阻害薬が慢性腎臓病の治療薬としても承認されました。詳細な機序こそはっきりとは分かっていませんが、腎臓の前負荷を軽減し、糸球体内圧を低下させることによって腎臓を保護する役割が期待されています。

また脂質異常症に対しては、コレステロールを低下させるスタチンやエゼチミブと呼ばれる薬を使用し、動脈硬化の抑制効果を期待します。そのほか、毒素の1つである尿酸値が高い高尿酸血症がある場合には、原則として尿酸の排泄でなく生成を抑制するアロプリノールという薬を使用します。また、最近ではフェブキソスタット、トピロキソスタットといったさらに強く尿酸の合成を抑える薬剤もよく使用されます。

腎臓では赤血球をつくるのに必要なエリスロポエチンというホルモンがつくられていますが、腎機能が低下するとこのホルモンが必要量つくられなくなり、腎性貧血を引き起こします。腎性貧血が起こると倦怠感やめまいなどの症状が起こるほか、心臓や腎臓にも負荷がかかります。

この状態を改善するための治療法の1つとして、注射でエリスロポエチンそのものを補う治療があります。また最近では、低酸素応答*という仕組みを利用した治療も始まっています。これはHIF-PH阻害薬という薬を使って、体に擬似的な低酸素状態をつくり出すことで「酸素が足りない」と腎臓に認識させ、エリスロポエチンの産生を促す治療法です。なお、低酸素応答のメカニズムを解明した3人の研究者は、2019年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

*低酸素応答:低酸素状態になると体が一定の状態を保とうとしてエリスロポエチンを分泌し、酸素運搬能力を向上させる仕組み。高地トレーニングは低酸素応答の原理を利用したもの。

腎臓にはカルシウムの吸収を促すビタミンDを活性化させるはたらきがあります。腎機能が低下するとビタミンDが低下し、カルシウムの濃度は低下してしまいます。一方、腎機能低下によってリンの排泄がうまくできなくなるため、リンの濃度は上がります。これらに応じて、副甲状腺の機能が上昇することで骨が脆くなってしまいます。このため、カルシウムとリンのバランスを調整し、副甲状腺のホルモンバランスを取るために、ビタミンD製剤やリンの吸収を抑制するリン吸着薬などを使用します。

活性吸着炭製剤が使われることもあります。炭には有害物質を吸着する作用があるため、昔から解毒剤として使われてきました。活性吸着炭製剤を服用することで、腎機能低下によって体にたまった老廃物や毒素を吸着して便として排泄させることができます。

また、前述のようにカリウムの濃度が高くなると心停止の恐れがあるため、カリウムを吸着する薬を使用することがあります。そのほか、腎機能が低下すると酸がうまく出せなくなり体が酸性に傾くため、酸を中和する重曹などの制酸剤を使用します。

食事療法や薬物治療に加えて、生活習慣を見直すことも重要です。腎臓になるべく負担をかけないように、以下のようなことを心がけるようにしましょう。

肥満は腎臓にとって大きな負担となります。肥満を改善することで、慢性腎臓病の原因となる高血圧脂質異常症を改善させる効果が期待できます。

肥満の予防や改善のためには、医師からの安静指示が出ていない限り、適度な運動習慣を身につけましょう。まずは体操やウォーキングなどの軽い運動から始め、慣れてきたらランニングやサイクリングなど少しずつ負荷を大きくしてみてください。運動量は運動後に疲れが残らない程度にしましょう。また、毎日の体重測定で変化を把握することも大切です。

PIXTAより加工

過労や睡眠不足になると、交感神経が刺激されて血圧が上昇し、腎臓に大きな負担がかかります。疲れをためずに適度に休む、夜は睡眠をしっかり取ることを心がけましょう。

たばこに含まれるニコチンには、血管を収縮させる作用があります。これによって血流が悪化するため、腎機能が低下してしまいます。喫煙している方は、慢性腎臓病と診断されたら直ちに禁煙するようにしましょう。

腎機能が低下している方の場合、風邪などの感染症にかかりやすい状態にあります。また、感染症によって腎機能がさらに低下してしまう恐れがあります。そのため、手洗いやうがい、マスクの着用などでしっかりと感染症の予防をするようにしましょう。インフルエンザの流行シーズン前には予防接種を受けることをおすすめします。

私が腎臓病の患者さんを診療する際に大切にしていることは、科学的根拠に基づいてしっかりと診断したうえで、個々の状態に合わせた治療を行うことです。腎臓病の背景にはさまざまな原因や病態が隠れています。そのため、一体どのような腎臓病なのか、そしてそれが治るものなのか、治らないものなのかを診断時に見極めることが大切です。

また、患者さんにはできるだけ分かりやすい説明になるよう意識しています。ほかの病気もそうですが、腎臓病は特に難しいイメージを持たれやすい病気です。しかし患者さんがしっかりと治療に向き合うためには、自身の病気や治療の必要性についてきちんと理解することが大切です。そのため、患者さんとお話しする際には、難解な表現にならないよう、たとえ話なども交えながら分かりやすい言葉を使うように心がけています。

MN撮影

腎臓には、血液をろ過するだけでなく、体にとって大切なホルモンを分泌するなど、私たちが想像する以上にたくさんの役割があります。その多彩な役割によって体のバランスを調整して、とても静かに頑張ってくれているのです。そのため、慢性腎臓病と診断された方は、これ以上腎臓に負担をかけないような生活を心がけてほしいと思います。太らないように注意したり、塩分制限をしたりするといった、ちょっとしたことでも構いません。少しでも腎臓を楽にしてあげていただければと思います。慢性腎臓病では、一度失った腎臓の機能を回復させることは困難です。大切な腎臓の機能を失ってしまう前に、普段から腎臓に優しい生活を意識して、一緒に治療に取り組んでいただきたいと思います。

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