連載慢性期医療の今、未来

DXで病院運営の改善を―データ活用の重要性と具体策

公開日

2022年12月13日

更新日

2022年12月13日

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2022年12月13日

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新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界の医療はデジタル化の流れを加速させています。日本の医療界でも、システムの標準化と共通化を目的とした医療DX(デジタル・トランスフォーメーション*)の推進が始まりました。私たちは、DXによって医療が「つながり」を持つことの重要性を理解し、覚悟を持つ必要があります。今回は済生会熊本病院院長の中尾浩一先生に、日本の医療DXの現状と課題を踏まえ、同院で行っている施策を伺います。

※この記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

*デジタル・トランスフォーメーション:データとデジタル技術の活用によって顧客や社会のニーズを把握して、サービスやビジネスモデルを変革することで医療における課題解決を図ること。

デジタル化浸透や技術活用の遅れが医療DXの課題に

厚生労働省は、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)によって医療機関などの情報連携を促進し、地域全体で質の高い医療を提供する仕組みづくりを進めています。2022年10月12日には、岸田文雄総理によって医療DX推進本部が発足しました。全国医療情報プラットフォームの創設や電子カルテの標準化を推進するとのことですが、実現は決して容易なものではないでしょう。

まず、日本には全人的医療*という言葉もあるように、患者さんは医師との「接触・対面」を好み、医療に温もりを求める傾向にあります。政府が進める医療のデジタル化は、情緒的な日本のアナログ医療と逆行するものなので、浸透のためには、まず国民の価値観から変える必要があるかもしれません。

また、デジタル化を目指すといっても、ただ電子機器を取り入れただけではデジタル化とは言えません。医療現場での電子機器導入といえば電子カルテを想像する方も多いでしょう。確かに、医療界における電子機器の導入は急務ですが、各々が今までどおりの価値観で電子カルテに物事を書き進めていては、媒体が紙からパソコンに変わっただけで終わってしまいます。重要なのは、その後のデータ解析と共有です。

そして国が進めている医療DXは、情報共有によって医療界が「つながる」ことを目的の1つにしています。「つながる」というと聞こえがよいですが、概して言えば自分のしたことを他人に見せるということですから、相当の覚悟が必要です。また、当然費用もかさみますので、誰がどう負担していくかというのも課題でしょう。

*全人的医療:特定の臓器や部位にのみ着目するのではなく、心理状態や社会的側面なども考慮しながら、その患者に適した医療を行う方針のこと。

医療のデジタル化を推進するための3施策

当院はJCI(Joint Commission International:国際医療機能評価機関)の基準に則って電子カルテの記入方法を統一しており、これによって患者さんが診療科を移った際にもスムーズに情報共有ができるようになりました。

“性弱説”に基づいたデータ分析技術の活用

オリンピックの走り幅跳びなどの競技では、選手が飛んだ距離を自己申告してメダルをもらっているわけではありませんよね。距離の測定やルールに則っているかの判定は第三者によって行われます。これと同様にJCIでは、データ収集方法の決定から実際の分析までは現場と切り離された部署の担当者が行うようQPS(Quality Improvement and Patient Safety:質の改善と患者安全)で定められています。これは人間の弱さを前提とした、性悪説ならぬ“性弱説”の考え方に基づくものだといえます。

当院では、医療安全管理・品質管理に関わるデータの収集・解析・現場への指摘を、臨床現場には直接関わらないTQM(Total Quality Management:総合品質マネジメント)部が担当しています。たとえば、患者さんの状態が悪化したケースや、術後に予定外で集中治療室へ入ることになったケースがあるとTQM部から指摘が入るので、最初は現場からの抵抗を感じました。実際、患者さんの予後というのはさまざまな因子が関与し、決して医師の技術だけで決まるものではありません。ただし、どのようなときでも医師は自身の判断に対する説明責任を負う必要があります。だからこそ、当院はTQM部が中心となって説明責任を果たすための仕組みを構築しているのです。

オンライン・リモート技術の活用

当院では「高度医療」を基本方針の1つとして、遠隔地や過疎地の患者さんに対する治療の提供にも力を入れています。特定領域を専門とする医師のいない地域に住む患者さんや海外在住の患者さんでも支援できるようなオンライン診療とインフォームド・コンセント*の体制づくりを進めています。

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*インフォームド・コンセント:自身の症状や今後の治療内容について患者さん本人とご家族に説明を行い、納得したうえで同意を得ること。

RPAの活用

日々の定型業務に関しては、RPA(Robotic Process Automation)化を行っています。RPAとは、事務的なタスクをコンピューターに覚えこませて自動的に処理するシステムを指します。コストの面で課題はありますが、今後はおそらく下がってくると考えられますし、コンピューターのサポートによって、人でなければできない仕事を適正な業務時間内に行うことができるようになれば、医療者の業務効率化につながります。

急性期医療と慢性期医療を医療DXで「つなぐ」には

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急性期医療を担う当院は、慢性期医療を担う施設との連携が欠かせません。地域の中で任された役割を果たすには、まず現状の理解が必要です。

今後、医療DXの浸透によって急性期医療機関と慢性期医療機関がつながりを持ち、タイムリーに患者さんを送れる仕組みづくりができることを願っています。患者情報の共有だけでなく、患者さんの容体に変化があれば自動アラートで紹介元にも連絡がくるなど、地域全体で患者さんをサポートするシステムが理想ですね。また、日々変化する治療のスタンダードや新薬の情報を地域内でタイムリーに共有できれば、地域における医療レベルの向上も期待できます。

また、医療DXは課題改善ツールとしても活用できるかもしれません。たとえば日本の医療には、検査すればするほど患者さんに感謝されるという特徴があります。少子高齢化による医療費高騰が叫ばれている今、検査過剰になりがちな現在の医療体制を変えていかなければなりません。そのためには、検査に対する費用の出所について医師と患者が共に考えていくことが重要です。SDM(Shared Decision Making)が行える環境を整え、医師や患者さんにフィードバックが行われる仕組みづくりができれば、将来的には医療費の削減にもつながるのではないでしょうか。

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